PJ Harvey 『White Chalk』

Myspace : ★★

嗚呼、これをやるなら、2年前か、どんなに遅くても去年にしてほしかった。
PJ Harveyという人は、なんだかんだで結構ミーハーなところがあって、セカンド・アルバム以降、どの作品にも、その時々の流行が割りと素直に反映されるところがある。彼女自身がいいリスナーなのだろう。前2作は、そのミーハーさが時代ともあっていた(『Stories~』に関しては、本人も意識していないところで先駆けていた感さえあった)が、今作はちょっと流行へのレスポンスが遅かったかな。アルバムを聞けば、彼女の意識がフリーフォークやキャット・パワーあたりのシンガーソングライターに行っているのはよくわかるけれど、もう落とし前がついてしまったシーンに今それへの返答を出しても、ちょっとといったところ。そうこうしているうちにThe Gossipの登場である。PJ、早くもう一度ギターを持つんだ!

White Chalk

White Chalk

Super Furry Animals 『Hey! Venus』

Myspace : ★★★★

これまで、別に信頼を裏切る作品なんてないけれど、ここまで外向的で、「ああ、これいい!」とはっきり断言できるSFAのアルバムっていうのも久しぶりじゃない?グラフ・リーズのソロがコナー・オバーストのレーベルからでたり、今作もBroken Social Sceneを手がけたDave Newfeldがプロデューサーになったりと、外からの刺激が多かった今年のSFAだが、帰って彼ららしい作品になっているのもいい。

Hey Venus! [輸入盤CD] (RTRADCD346)

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Shout Out Loud 『Our Ill Wills』

My Rate : ★★

The Cuteの「Inbetween Days」を、カウベルといかにも北欧っぽいストリングスで味付けしたような「Tonight I Have To Leave It」は非常にいい出来で、この北欧バンドも同郷のピーター・ビヨーン・アンド・ジョンのビヨーンのプロデュースでポップになって飛躍かと期待したものの、アルバムのほかの曲が割りとよくある北欧インディーな感じにとどまってしまう。うーん。もっとガソバレ!

Our III Wills

Our III Wills

Hot Hot Heat 『Happiness LTD.』

Myspace : ★★

「Give Up」は結構よかったのになぁ。
なぜか、ブッチ・ウォーカー(アブリル)とロブ・カヴァロ(マイケミ)をプロデューサーに迎えた3枚目。プロデューサー陣を指して、セルアウトというには早計で、サウンドはアブリルでもマイケミでもなく(当たり前か)、キラーズ。ただ、どうにも気なるのは、ビッグになったプロダクションに曲が負けてしまっている=プロダクションはビッグだけど、曲自体が書けてないものが多いところ。なんか、気合入れて高い服買ったら、服に着られてしまったみたいな印象がぬぐえない結果だ。

Happiness Ltd

Happiness Ltd

Animal Collective 『Strawberry Jam』

My Rate : ★★★★
この言い回しが大袈裟であることは承知の上だ。しかしどうしても、このアルバムを聴いたとき、Beatlesの『Sgt.Peppers〜』を連想せずにはいられなかった。もちろん、『Sgt.Peppers〜』はロックの歴史において「最高のアルバムの一つ」と言われる作品である。いくら、Animal CollectiveのアルバムがPitchforkやDowned In Soundで年間ベスト級の高評価を獲得しているとはいえ、「史上最高」と比べるにはさすがにはばかられるのは事実だ。だから、僕が言いたいのは、そういう「絶対値」的な部分ではない。もっとディテイルの部分についてだ。


一つ目の相似は、「実験性」と「ポップ性」の関係である。それまで、「四人はアイドル」だったBeatlesはドラッグに彩られたフラワームーブメントの中で、当時のレコーディング技術を駆使した実験的な方法論に手を染めていった。その一つの到達点が『Sgt.Peppers〜』だ。一方、すでに各方面で言及されている通り、このアルバムはAnimal Collectiveがはじめて作った「ポップ・レコード」である。限りなく実験音楽に近い場所にいた彼らは、その方法論を持ったまま、初めて「ポップ・レコード」を作ったのである。向かってるベクトルこそ正反対だが、「実験性」と「ポップ性」の混合具合はほぼ同じポイントにいるように思える。まあ、これは音楽をある座標軸上の点に貶めた味気ない比較ではあるが。


二つ目の相似は、その「実験」と「ポップ」の交差点上で、実際に両者が表現したものについてである。ともに、ドラッグがモチーフになっている通り、「眩いサウンド」がアルバム全編で目くるめく展開していく。一見、カラフル、おまけにユーモラス、表層的には「ピースフル」にも聴こえてしまいそうだ。しかし、その「ピースフル」の下に不気味な「悪意」がこもっているところまで不思議と『Sgt.Peppers〜』と『Strawberry Jam』は相似してくる。『Sgt.Peppers〜』が偽装の別バンドのステージを、「A Day In The Life」の暗転で幕を落としたように、『Strawberry Jam』もカラフルのサウンドスケープの果てに、不気味なピアノループで始まるミュージック・コンクレート風の「Cuckoo Cuckoo」でクライマックスを迎える。眩しい光の淵にある真っ暗な闇。薬物を摂取するなんてそもそも「健康的」な行為ではない以上、この種のレコードは常に過剰な光と、その裏の暗闇を描いてしまうものなのかもしれない。「愛」と「平和」と「恍惚の中のファンタジー」、そして「闇」と「死」。その混合物が、この2枚のアルバムを繋いでいる。


もちろん、「ロック史上はじめての〜」づくしの『Sgt.Peppers〜』みたいに『Strawberry Jam』を「歴史的名盤」と言えるかというとそうではない。ロックが、「大衆性」と「実験性」の間で常に反復運動を起こす音楽だ、ということが明らかになった今、その境界線に挑む作品はある間隔ごとに常に登場する。RadioheadだってFlaming Lipsだってそうだ。要するに、今年はAnimal Collectiveがその境界線に挑んだ、ということである。そして、いい仕事をした。すでに、以前言及したことではあるが、まさかAnimal Collectiveがこんな作品を作れるなんて、僕はまったく想像していなかった。


※まあ、リップスやレディへあたりと比較して、「ライブでこれ再現できるまで認めない」という意見もあるようですが、そういう方には一つご提案。あなたの中の「ロック名盤All Time100選」の中から、Beatlesの『Sgt.Peppers〜』を排除しましょう。いや、『Sgt.Peppers〜』以外、中期〜後期の作品ほぼすべてだな。Beatlesは実験性に手を染めていたとき、とっくにライヴバンドであることをあきらめていたのだから。あなたのその一見もっともらしい「ライヴ重視」という考え方は、「ライヴにはコンディションの差」というものがあり、日本で見る限り、いわゆる「ライブの実力」と言われるものを正確に測ることはできないという条件下にある限り、ただの都合のいいトリックでしかない。あなたが、” Sgt.Peppers Must Die”と言えるまで、このアルバムはしばらく、あなたの肩に重くのしかかる。