Lily Allen 『Alfie EP』

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ひきこもりの弟への手荒い激励(説教?)ソングである表題曲をメインにフィーチャーした来日記念6曲入りEP。この手のコレクター・アイテムは作品単位で語るもんでもないので、一曲ずついきます。


1曲目:「Alfie」
「そんなゲームばっかしてたら、一生女の子とエッチできないからね!」といういかにもリリー・アレンらしいひきこもり弟への説教を、テーマパークのアトラクションみたいなユーモラスなトラックに乗せて歌う秀逸な楽曲。「どこまでも自分に正直に」な女の子の本音トーク+ユーモア溢れる編集感覚というリリー・アレンの良さがよく出ている。(★★★★)


しかし、「訳詞:辛酸なめ子」って…。ネタとしては面白いのかもしれないけど、「万年床に寝る男の部屋に来る女子などいないから」よりも、やはり国内盤アルバムの訳詞みたいにリリーのキャラクターを尊重したものの方がよかった…このくだりは、不自然に古風な口調で「ぼそっ」とつぶやかれてもあんまり意味はない。やはり、豪快に言い放たなければダメである。「一生女の子とエッチできないからね!」と。(減点★1点)


しかし、そんなリリーも、弟のマスタベーションの現場と遭遇したときは、やっぱりひくらしい…(from 「Alfie」PV放送禁止バージョン。 うん、まあ確かに「放送禁止」なのかも、可愛いPVだけど。加点★1点


2曲目:「Smile」
リリーの代表曲である同曲をアルバムと変わらないバージョンで再収録。アルバムを持ってる人からすれば、要らない一曲だが、フジロックにあわせ、「アルバムを持ってない人にも買ってもらう」という意図からすれば、かなり思い切った施策(1000円ぽっきりなのに!)。こういう宣伝側の意図がはっきりとわかるケースというのは、実のところ洋楽業界にはほとんどないので(ていうか、やることが雑すぎる)、素直に感心しましたよ。(でも、+−0)


3曲目:「Everybody’s Changing」
ライブではしばしば披露されているKeaneのカバー。しかし、どうせなら、Kooksの「Naïve」を収録してほしかった…あっちの方が桁違いにいい。(減点★1点)Kooks本人が歌うよりも5億倍くらい「ナイーブ」である。実はKooksとは喧嘩中なのに、ライブではしょっちゅうカバーするっていうのも、なんか可笑しくていい。


4曲目:「Nan You’re Window Shopper」
こちらは、50Centの「Window Shopper」を基にした曲。原曲は、「Get Rich Or Die Tryin’」(要するに成り上がりが全て)野郎である50Centが、「成功してセレブになった俺、すげーっしょ」と延々と自分自慢する曲だが、リリーは、イントロのリリック(The top feels so much better than the bottom)の”Top”と”Bottom”を逆転させる。「私、こんなだけど、それの何が悪いの!?」と堂々と言い放つところがリリーらしい。(その後の詞は「ある頑固でケチな老人」の話。つまるところ、この曲は「頑固なオトナは私のこと、『社会のゴミ』みたいに思うかもしれないけど、あなた達の生活みたいな未来なんて私はあこがれないからね!」っていうニュアンス)


過去の曲を下敷きにして、自分の周囲や自分自身の本音を歌うというのは、本来ヒップホップがよく使う手法だが、「ギャングスタ・ヒップホップに、本来のヒップホップの手法で、それとは全く違う価値観を乗せてしまう」という逆転劇が痛快な名カバー。(加点★2点)


ちなみに、リリー・アレンギャングスタ批判がもっとも痛烈に現れているのはDizzee Rascalの最新作にフィーチャリングで参加した「Wanna Be」だ。


「ねえ、そこのギャングスタ気取りさん、ひとつ答えてくれない?あなたの首にかけたジャラジャラしたゴールドのネックレス。それ、あなたのママに買ってもらったものなんでしょ?」


これを言ったリリーもすごいし、「ヒップホップの女性フィーチャリング・ヴォーカル=ビッチ役」という公式にまで批判を浴びせたディジー・ラスカルもすごい。


5曲目:「Alfie (CSS Mix)」
CSSによる、アルフィーのリミックス。下世話な電子音が如何にもCSSっぽい。別に悪くはないけど、「CSSリリー・アレンをミックスしたら、こうなります」以上のものは特にないと思う。(+−0)


6曲目:「Smile」(Mark Ronson Version)
アルバムでも一部の曲をプロデュースを手がけたマーク・ロンソンが「Smile」をプロデュースしなおしたもの。如何にもマーク・ロンソンっぽいオールド・ポップス調のトラックだが、オリジナルの方が全然いい。マークのアルバム『Version』でも、「スミスやレディオヘッドの曲にそんな陽気なホーン乗せないで」という違和感があったけど、それと同じ。ていうか、マーク・ロンソンってプロデューサーとして大したことなくない?基本的に、自分の得意ネタで原曲を染めることしかこの人は考えていないんじゃないか。これをして「60sモッズがR&Bカバーをこぞってやっていたのと同じ」という人も一部にはいるようだけど、それはいくらなんでも大げさ。60sモッズはR&Bから確かにいろんなものを吸収していたけれど、マークにはその「吸収」の部分が、(リリー・アレンエイミー・ワインハウスを発掘したという1点以外に)ほとんど見えない。(減点★1点)


というわけで、星★★★★に落ち着きました。50Centのパロディーには、1000円以上の価値(つまり単独でシングルで切っても買う価値)があると思っているので、これは本音です。

「Alfie」放送禁止Version

「Nan You're Window Shopper」

「Naive」(EP未収録だけど…)


アルフィー EP(日本限定・来日記念盤)

アルフィー EP(日本限定・来日記念盤)